失点率

王監督も「99パーセントないと思っていた」準決勝進出を達成させてくれたこの失点率
WBC特有のこのルールについて少し考えてみようと思う。


当初WBCの開催にあたってこのルールは存在しなかった
同率時の順位決定法は単に失点数と自責点数のみで決める予定だった。
だがそれは日本の中国戦コールド勝ちの翌日、
延長戦やコールドゲームの際に不公平が出るとしてこの失点率に切替えた。[要出典]

一応おさらいしておくが失点率とは「失点をその守ったイニング数で割ったもの」である。
防御率とは違うのでご注意を。すなわち自責点と失点とで違うのでたとえ9をかけても防御率にはならない

つまりは大会開催中に急遽変更されたルールなのである。[要出典]
1次リーグでアメリカがカナダに大敗を喫し、失点率の関係で追い込まれたが、
そのルールについてジーター選手は「10分前に聞いたばかりで知らなかった
というコメントを残している。そんなルールの前にアメリカは準決勝進出を逃したということになる。

それでは失点率が問題になった試合を振り返ってみようと思う。

1次リーグアジア予選の韓国−日本戦。
当然勝った方が1位通過となるが、引き分けとなった場合は失点率で決まる。
・日本は15イニングで5失点=失点率0.333
・韓国は18イニングで1失点=失点率0.056
いずれにせよ2次リーグには進出できるので大した問題にはならなかった。
いや、王監督が「勝てばいいんでしょ」と仰っていたように皆よく分かってなかったというのが正しいかもしれない。

1次リーグPoolB。各チーム2試合ずつ消化した時点でカナダが2連勝でトップ。
2連敗の南アフリカが2次リーグに進出する場合を考える。
それは3チームが1勝2敗で並んだ場合である。
・南アフリカは8イニングで10失点
・メキシコは17イニングで6失点=失点率0.353
この失点率を上回るには29イニングで10失点=失点率0.345でないといけないので不可能となる。

ここで南アフリカを除外してアメリカの2次リーグ進出条件を考える。
・アメリカは18イニングで8失点=失点率0.444
・メキシコは8イニングで2失点
・カナダは9イニングで6失点
もし次の試合でメキシコが2得点以内で勝つ(メキシコが2−1で勝った場合)とすると
・メキシコは17イニングで3失点=失点率0.176
・カナダは18イニングで8失点=失点率0.444
となり、アメリカが最終戦に勝ったとしても直接対決で敗れたカナダを上回れない
結果メキシコが大差で勝ったがアメリカの1次リーグ敗退もありえなくはなかったのである。

そして2次リーグPool1。失点率という言葉が有名になったのはこれのためだろう。
日本がメキシコを破った時点で日本が準決勝に進出できる条件を考えてみよう。
韓国戦に勝つとしてアメリカがメキシコに敗れれば順当に進出。ではアメリカが勝つとどうなるか。
3チームが2勝1敗で並ぶ。失点率を見てみよう。
・日本は8と2/3イニングで4失点
・アメリカは17イニングで10失点=失点率0.588
・韓国は9イニングで3失点
日本は若干イニング数が少ないので韓国には2点差をつけて勝たないといけない。
アメリカを上回っても進出はできるのだから6失点以内なら
・17と2/3イニングで10失点=失点率0.566
となるので進出できる。
…と、誰もがそう思っていた。今でもそう思っている人もいるだろう。
だがこれは勘違いかもしれない。韓国−日本戦は日本が後攻
つまり日本が普通に勝つときは韓国の守りは8イニングだけなのである
だから日本が1−0で勝っても101−100で勝っても
・日本は17と2/3イニングで4失点=失点率0.226
・韓国は17イニングで4失点=失点率0.235
・日本は17と2/3イニングで104失点=失点率5.887
・韓国は17イニングで104失点=失点率6.118

ちなみに韓国は8失点以上で負けると
17イニングで11失点=失点率0.647となり、アメリカが勝つと敗退が決まる。

だが実際は韓国に1−2で敗れた日本。最終戦となるアメリカ−メキシコ戦を考えてみよう。
アメリカが勝てば2勝1敗であるから文句なしにアメリカ・韓国が進出。
負けることが前提となるが失点率を見てみよう。
・日本は17と2/3イニングで5失点=失点率0.283
・アメリカは9イニングで3失点
・メキシコは9イニングで6失点
もしメキシコが3点差をつければアメリカに並ぶわけだが、それだけだと日本を上回れない
それには延長13回まで0に抑える必要がある
・メキシコは22イニングで6失点=失点率0.273
だがこれと同時にアメリカに3点差をつけるとなると後攻のメキシコは不利。
また2次リーグは延長が14回までと規定されており、
13回裏か14回裏に0−0からのサヨナラ3ランor満塁ホームランでのみ準決勝へ進出できる。
一方のアメリカはたとえ負けても1失点までなら大丈夫。
・アメリカは17イニングで4失点=失点率0.235
だが実際の試合では2失点での負け。
・アメリカは17イニングで5失点=失点率0.294
小数点第3位まで計算したため日本とは差があるようにも見えるが、
よ〜く見るとわずか0.01という僅差での準決勝進出だったとわかる。

他にも失点率を計算すべきものもあったかもしれないが、この程度にする。
今さらではあるが、延長などサヨナラの場合をほとんど考慮していないことを断っておく。
2次リーグの韓国−日本戦で勝てば必ず進出すると書いてしまったが、
10回以後にサヨナラで勝ったとしても1点差の勝利であれば
・韓国は18イニングで4失点=失点率0.222
試合結果のところにも「勝ちさえすればいいことが判明」と書いてしまったが許して戴きたい。

よくわからないルールだと言われもする失点率だが、むしろ問題なのはそれを含めた順位決定方法だろう。
時間が許すのであれば、勝ち数で並んだ場合プレーオフなどを開くべきである。
そんなことは到底出来ない中、今回のような規定は無難のようにも思える。
だが2次リーグでは日本が1勝2敗の負け越した状況で2位通過を果たしている。
真の実力を持ち、また疑惑の判定もあった日本だからこそ、その進出に異議を唱えるものはいなかった。
だがこれは負け越してプレーオフに出場してしまった西武と同じ事をしているのである。
ファン心理からそんなことはあって欲しくないが、韓国がいきなり決勝に進んだって文句は言えなかっただろう。

あとは延長やコールドには配慮した失点率とはいえ配慮しきれていない所もある。
先攻・後攻の平等性である。たとえば日本−アメリカ戦。
A.ロドリゲスさんのタイムリーで見事サヨナラ勝ちを収めたアメリカだが、
もしアメリカが先攻だったらあのタイムリーの後、追加点があった可能性もある。
そもそもあの当たりで2塁ランナーが還って来たかもしれない(でもサヨナラでなければ寝っ転がるヒマはないわな
だがそれを平等にするとなると全ての試合で9回表裏までやって終わり、延長なし
みたいな感じにせざるを得なくなってしまうので考えないことにしよう。

ちなみに失点率ではなく、得失点差で順位を計算しても結果に変動はない
強いて言えば日本の2次リーグ突破がより差をつけて決まるということだけである。
(日本は+4、アメリカは±0、メキシコは−4、当該国間でのみの計算)

今日考えた限りでは失点率という制度に大きな問題を見つけることはできなかった。
だが根本的な同率時の順位決定法などは第2回に向けて議論されることと思う。

最初に決勝トーナメントに進めたというのは失点率のお陰、みないなことを書いたが、
神風を吹き込んだのは世界屈指の投手陣と鉄壁を誇る守備陣のお陰というのが正しいかもしれない。

1次・2次とも失点率に翻弄されたアメリカがルールを変更することもあるかと思う。
しかし失点率が我々にドラマを与えてくれたことは確かであろう。
たとえ次回から失点率が廃止されたとしても、その感動をくれた失点率への感謝は忘れてはならないように思う。

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以下、余白



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