審判問題


2次リーグの第1試合。日本対アメリカの一戦。8回の裏。
誰もが犠牲フライで西岡選手が生還したように思った。
アメリカ野手陣がタッチアップが早いと抗議するも二塁審の判定はセーフ
だが、アメリカのマルティネス監督が抗議すると、主審のデービットソン氏
どの審判に相談することもなくタッチアップが早いと認め、西岡選手のアウトを告げた。

だがこの画像、中継映像を観る限りではその判定は間違いと言わざるをえない
この判定の変更を公に支持しているのはこの一戦を中継していた有線テレビ局「ESPN」くらいである。
その解説を務めたリック・サットクリフ氏がタッチアップは半歩早かったと断言している。
ただ、仮にその通りだとしても一度下された判定を勝手に変更する権限は球審とはいえ、ない
満塁時のタッチアップを判断するのは球審と定められてはいるが、
その場合、二塁審がセーフと判定した時点でそれは違う、と言う必要がある。

また、こういったことから派生して彼ら審判が自国の試合をジャッジしていたこと、
そして彼らがMLBの審判員ではなく、マイナーリーグの審判員であること、といった問題が報道された。

実は他にも審判について騒がれたことがあった。1次リーグ、いわゆるアジア予選での話。
韓国がMLBに審判員を派遣するよう要請したのである。
昨年(2005)に行われたアジアシリーズでは当該国以外の審判員が順番に務めたが、
上下にストライクゾーンが広い日本の審判やブレのある台湾の審判に苦しめられたのが問題だとした。
つまりそういった不安要素を少しでも減らしたいがために大リーグの助けを得たいと考えたのである。
また、これは韓国−台湾戦で日本の審判が不正をすることも考慮していたとされている。
当初1次リーグにそういったことをする予定はなかった事務局だったが、
結局韓国の要求をのみ、派遣を決定。だがそれはマイナーリーグの審判員だった。

メジャーの審判が出張費を多く要求したため、話し合いが決裂したのである。
これは1次リーグに限った話ではなく、WBCそのものにメジャー審判員が出場しないことを意味していた。

デービットソン氏らがマイナーの審判員であったのはこのせいである。
だが、彼はメジャーに居たこともあるベテラン審判だった。
一部報道によれば彼は現在マイナーにこそ居るが、その能力には問題がない、とされてもいた。
メジャーを辞めさせられたのも労使交渉の中でのこと、ということで人選に問題はないとする見方もある。

ところでその辞職は1999年のことであった。
審判員とリーグの関係が悪化し、57名もの審判員が辞職したといわれる。
この事件。発端はある審判員が3試合の出場停止処分を受けたことに対する抗議である。
ある投手を退場処分にし、抗議する監督を跳ね除けた際に、キャッチャーに暴力行為をとったとされている。
これに対する抗議と労使の問題でストが禁止されていたことで総辞職という運びになったのだった。
一部の審判員はこの後メジャーに復帰しているが、デービットソン氏はまだ復帰できていない。
まだ、というのも彼はメジャー審判に空きが出来次第、復帰するという合意がなされているのである。

ところである審判員と書いたが、その方の名前はトム・ハリオンというらしい。
もしかしたら聞いた覚えもあるかと思う。そう、彼は決勝戦で主審を務めていた方である。
追加点の欲しい9回の表、イチローさんのライト前への当たりで川崎さんは一気にホームを狙う。
ペスタノさんはレガースで完璧にブロックしていてスライディングだけではベースを踏めなかった。
とっさに川崎さんが“奇跡の右手”を伸ばしてレガースの間からホームベースにタッチ。
後方からのカメラではタッチが見えないが、トム・ハリオン主審はしっかりと絶好の位置でこれを見ていた。
あまり大きく報道されないが、これは主審が素晴らしいジャッジを下したと筆者は思う。

その判断は人それぞれであるので多くは書かないが、実はこのハリオン審判員も
デービットソン審判員とともに、メジャーの復帰へ合意がなされている。
合意がなされるということは、それなりの実力の持ち主であることを示しており、
実際2005シーズンでメジャーの試合も多く裁いていたらしい。

これを考えるとマイナー審判員に任せたことをただただ非難するのはどうかという気もしてくる。

では自国の試合を裁いていたのは問題であろう。他の国際大会ではそんなことは聞いたことがない。
だが、この、他の国際大会、というところにヒントが隠されているように思う。
つまり、野球というスポーツの特殊性である。
日本とMLBのボールが違うのは有名な話だが、同じ球技でボールが統一されていないのは野球くらいである。
このようにまだまだ各国間でルール細部の解釈が違っているという事情があるのである。
第3国の審判を用いなかったことはこういった理由を考慮の上のことであった。
日本−アメリカ戦は4人中3人がアメリカ人の判員だったわけだが、
自国に有利な判定をした(しようとした)のは結果的にはデービットソン氏一人である。
他の審判は平等か、もしかして日本有利な判定を下していたように思えた。
これも筆者の主観によるところが多かったが自国を裁くのは特に問題とすべきでないように感じた。

つまりこれらの派生的な問題は気にする必要はなく、
ただデービットソン氏のジャッジのみを検証すればいいのではないかと思うのである。

西岡さんのタッチアップがセーフに見えるのはファン心理ではないはずである。
それがアウトに見えたのは事実上デービットソン氏のみ
結果的にこれがアメリカの勝利を呼び込むのに一役買ったのは事実であるが、
それはアメリカをひいきをしようとしたのではなく、彼の性格が出てしまったと見るべきかも、と思う。
バレンタイン監督の話によれば彼はボークをよく取る事で有名だった。
他にもソーサさんと本塁打王争いをしたいたマグワイヤさんのホームランを
「観客がフェンス手前に乗り出して打球に触れた」としてツーベースにし、
野茂さんが先発した試合を没収試合にして負け投手にしたりしている。
(この試合はファールボールを回収せずに観客にプレゼントする試合だった。
 そんな中
モンデシー外野手がストライクの判定にした抗議により退場処分を受け、
 怒ったファンが一斉に
ボールを投げ込み始め、試合続行は危険と判断した
 デービットソン主審が没収試合を宣言した。これは行き過ぎだったと言われている)
と、このように彼は目立とうとして必死なのである。そしてこの大舞台でその癖が影を潜めることはなかった。
そんな風に考えてもいいのではないか。
決勝戦の9回。ベンチからはみでる日本代表を真顔で注意する。
彼の真面目かつ、目立ちたがり屋な性格が災いしたというのが彼のイメージを作り上げたゆえんではないのか。

アメリカ−メキシコ戦もそのように考えることができる。
3回の表。バレンズエラさんの放った打球はライトポールへ直撃。

通常喉から手が出るほど欲しい先取点ではあるが、この場合メキシコは先制した時点で敗退が決定。
それを知っていたデービットソン氏が、メキシコのためにツーベースにしてあげたと考えることもできる。
結局は準決勝進出よりも勝ちを優先したメキシコが勝ちを収めたが、
もしかするとあの誤審のお陰で準決勝に進めた、なんてこともあったのかもしれないのである。

清水直さんデレク・リーさんにホームランを浴びる要因を作った
あの執拗なスピッドボールだという注意も、ボーク好きな性格が災いしたわけである。

決勝戦、日本のセーフティバントはいずれも惜しくもアウトと判定され、
キューバの惜しい当たりは普通に内野安打になるという光景がよく見られた。
これも単に試合を盛り上げようと負けている方を応援しつつ、目立ちたかっただけなのである。

……と、必死でデービットソン氏をかばってはみたが、どうも限界のようだ。
まず、目立ちたいから、というのは正当な理由として認められるはずもなかった
ポール直撃がフェンス直撃に見えるなんてそうあるはずもなく、
あれは審判の限度を通り越した試合への介入に過ぎなかった。

そもそも日本が優勝していなかったら筆者も彼のことをボロボロに書いたことだろう。
結果的にドラマを生み出してくれた彼に感謝の気持ちを込めて擁護してみただけである。

ともかく彼は日本で一番有名な審判ともアメリカ人とも言われるほどになった。
今後WBCと聞く度に彼の名前を思い出すことだろう。
彼は目立つ、という悲願を見事達成したのである。

だが、最初の誤審はマルティネス監督の抗議によってもたらされたということを忘れてはならない。
もちろん抗議がなくても判定を変えたかもしれないがタイミングの関係でそれは難しいだろう。
何を言おうとしているのかというとマルティネス監督が球審に文句を言いに行ったことが問題だということである。
確かに規則によればタッチアップの判定をするのは主審だが、
普通はセーフと判定した2塁審に抗議するものではないだろうか。
つまりはメジャー昇格を狙う若い審判じゃ話にならないと、
何かやってくれそうなデービットソン主審に抗議をしかけたわけである。
A.ロッド選手が「MVPは監督」と発言したように
監督は主審がどんな人物か把握していたと思われる。
まあ史上最悪の審判と言わしめたほどの人物である。知ってて当然であろう。
要は監督の狙い通りの誤審起こるべくして起こったものなのかもしれないのである。

とにかくこの事件によりWBCの注目度が若干アップし、
普通に優勝したときよりも嬉しさが微増したことは事実である。

誤審は誤審だ、勉強して出直して来い、と言うのは簡単だ。だけどそれだけじゃ能がない。
あんな明らかな誤審をするなんて普通じゃありえない、何か裏があるはずだ。
と、そう考えてみるのもいいんじゃないかと思って書いてみた次第だ。

彼のお陰で第2回大会では審判問題について何らかの改善が見込めるだろう。
彼がいなければ世間の大半はマイナーの判員が審判を務めていることに気付かず
また、それに問題を感じることもなかったように思う。

誤審云々の前にもストライクゾーンの範囲やら2段フォームやら解決すべき問題は山積みである。
巧くそういった議論の活発化に繋げるなどして、彼の犠牲を無駄にしないようすべきだと思う。

彼は同時にMLBによるMLBのための大会の問題性を再認識させてもくれた。
アメリカの2次リーグ敗退により第2回が開催されない可能性もないわけではないが、
彼は第1回を汚点の残る大会にした分、今後のWBCの発展に一枚噛むという形になったと言えるではないだろうか

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