日本一決定戦回想記〜脳内補完Ver.〜第六章



舞い上がった白い弾丸は,内野の頭を越えて……伸びる,伸びる,伸びるッ――打球に伸びがありません!

やはり入ってしまったか……センターのグラブに。

ゲームセット。

常なら打ち損じることのないボールであった。
これが大会という重圧……これもいつしか心地良いものに変わっていくのだろうか。

KPB大応援団――家族だが――のもとに戻り,しばし放心状態。
ぼんやり決勝戦を眺めていると,とんでもない事実が発覚した。

十字派……だと……?
公式戦初の敗戦を喫したその相手,デジタルであった。
なんということだ……前の試合を観ていて,遅くともやってる最中には気づかないといけない。
防げる失点もあっただろうに……と反省するが,後悔はさほどしていない。

中日のマウンドをみて欲しい。あろうことに先発は絶好調の落合である。
これではどうせ準決を突破していたって勝ち目がなかった。簡単に諦めがついた。

にしてもえげつない野郎だ。落合なんか誰も打てねっての。
おまけにドラチャンズらしい細かい野球をしてくるときた。
まるでこういう人とは仲良くなれる気がしないね。

100打点カルテットをねじ伏せ優勝した彼はふむ,ミヤケと云うのか。
よもや数年後,KPB団名誉顧問に就いているだなんてこの時は夢にも思わなかったな。

ともあれ。うん,なんというかこの程度のレベルね。
無残に負けておいて妙に安心した。

次に地方予選出れたら軽く優勝できるかも――
身体中を,光の速さで駆け巡った確かな予感。

その予感が現実となるのは1年後だったりするのだが,
1週後,懇願して今度は新宿まで車を出してもらっていた。

東京第二予選の会場,関東で残るは此処と千葉予選だけである。
ううむ,人が多いのう。
ギリギリの人数しか呼ばれなかったファミ通予選とはやはり雰囲気が違う。
当選してるのは最大で16人だから,多くの皆さんがHR競争だけやりに遥々来てるってわけだ。

その一人にだけはなりたくないね,まあ無理だったけどさ。
セギノールで8本。なにが起きたかという記録だ。
例のミットが少しズレるやつ,ことごとくミスった。
更に俺を凹ませるのが妹が高橋由で9発打ったのである。

前日に家族で練習したのだが,微調整は無理と判断した彼女,
・振るタイミングだけに集中
・スティックは動かさない
・左手は添えるだけ
この作戦が兄貴越えに結実した。
要するにミットが移動したのは1球だけだったという話。
のちのフルダケである。

悔しいのだね。

試合しないで帰るこの虚無感。絶望感。
あー無性に出場機会を求めてFA宣言したくなってきた。
えなたく氏サインして下さい,なんて話し掛ける元気もないね。

試合がしてえ。

帰って俺は必死でホームラン競争を練習した。
最後の予選ともなるとポイントでの争いも視野に入れねばならない。
俺は神宮に行く度ホームランを打たれていた新外国人のリグス(パワーD)に託すことに決めた。

試合に勝つ自信は元からあって,
HKRを突破する自信もつけた俺は,ノリ気ゼロであったKPB団メンバーズに声を掛けた。
「俺が優勝するのを観に来ないか?」と。

迫り来る電プレの大会しか気にしてなかった2人,
柔道部の帰りに制服姿で応援しに来てくれた。

ありがとう,しっかり目に焼き付けてってくれ。
まずはリグスで華麗に30本打つ姿を……ってあれ,
……えっ,今のフェンス? だってほら,飛距離には122mって……?

俺の短い夏が終わった。

ついでに言えば次期部長も隣でミスっていたので俺のプレーなど観ちゃいない。
すまない……せっかく駆けつけてくれたのにな……
……って何? ユースケが前田で30本打っただと?
MAX打った人は数名いたが,カブレラなどパワーAがちらほら……おお,補充はほぼ確定じゃないか。
安心して後藤武敏に声援を送るも無念の29本。
カブレラさん,辞退しなさい。

かくして俺はユースケの健闘を観届ける側になってしまった。
代わりに試合やったろうか? と言いたくてウズウズしていたが,
誘った時の反応とは裏腹にノリノリの様子である。
てか本気で勝つつもりだ……カープじゃなくてホークス使うなんて。

狭い地下のゲーム売り場,松葉杖で余計にスペースをとり迷惑極まりない俺。
だがなによりもユースケのプレー毎に騒いでたことの方が,
相手プレーヤにとっちゃあ果てしなく迷惑だったろうがなあ。

1回戦,1点ビハインドで3回表に入る。なんといきなり追い詰められた。
初球のスローボールを打ち損じたツケが回ってきた格好だが,さあどうなるかな。

といった記憶だったのですが,どうやら1回戦は後攻だったようです。
もはや忘却の彼方なのですが,ユーズケ氏が当時のメモをもとに回想してくれたようなので。
千葉予選に関しては彼にお任せしましょう。時間的にはそのちょっと手前まで戻って,次章に続きます。



     

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